「こだわらない練習「それどうでもいい」と言う過ごし方」読書メモ

「こだわらない練習「それどうでもいい」と言う過ごし方」
小池龍之介著 小学館

著者の小池龍之介さんは鎌倉の月読寺などの住職をしている僧侶の方で、仏教や座禅を通じて、心を安らがせる方法を多くの人に広めています。

数多くの著書があり、禅の考え方を中心に、心の安定の方法を解いたり、時には世相を切ったりしています。今回の本は世相を切る系と言う感じでした。

「あとがき」にも書いてあるのですが、なにやら命にかかわる感染症にかかってしまい、死線をさまよったとか。そのためか、これまで呼んできた彼の著書よりもエッジが立っていると言うか、座禅を始める前のやんちゃだったころの彼が見え隠れするような、そんな文章もいくつか見受けられます。なかなか、楽しいです。

この本の帯文に“他人のルール違反が許せない人へ”と言う言葉がありました。
以前観た映画に、この言葉にぴったり合った題材を取り扱っているものがあります。(ネタばれ入りますのでご注意)

「フレンチアルプスで起きたこと」と言うカンヌ国際映画祭である視点部門という作品賞と取った映画です。
ざっくりストーリーを説明すると、スウェーデン人の夫婦が小学生くらいの子ども二人を連れて、フランスのアルプスにあるスキーリゾートで5日間の休暇を過ごします。旦那さんは仕事人間で普段ほとんど休みも取らないため、たまには!と言うことで、思い切ったわけですね。

はじめのうちはスキーをしたり、おいしいもの食べたりして楽しく過ごしていました。
ある時、家族は昼食を、アルプスの美しく雪で覆われた山肌が間近に見られるホテルのテラス席のようなところで食べています。アルプスのスキー場では雪がたくさん積もりすぎて大きな雪崩が起こるといけないので、定期的に空砲のようなもので衝撃を与え、小さな雪崩を起こします。このテラス席では、その小さな雪崩の様子を見ながらランチが食べられると言う趣向になっているようなのです。
家族がランチを食べているときにも砲撃音がして、小さな雪崩が起こります。しかし、この雪崩、小さな雪崩にとどまらず、大きくなってテラス席の方に迫ってきます。
もう、ホテルをおおいつくさんばかりに雪崩が迫ってきますから、テラス席でランチを食べていた人たちは慌てふためくわけです。最初のうちは、まさかここまでは来ないよな、といった風に、ざわざわしてるんですけど、いよいよ目の前が真っ白になってくると、大パニックになります。この時、旦那(トマス)はパニックにまぎれて、奥さん(エバ)と子供を置いて一人で逃げてしまいます。エバは子どもたちをかばって踏ん張ります。

でも実はこれ、雪煙りが大きくなって降りかかっただけなので、全員無事でした。
慌てて逃げた人も、戻ってきて、何事もなかったかのようにご飯を食べ始めます。トマスも何食わぬ顔で戻ってきます。
トマスが家族を捨てて逃げてしまった事実をどう扱っていいのかわからなくなり、エバは混乱します。
このことがきっかけとなり、皮肉にも家族サービスの休暇の間、夫婦の関係が徐々に崩壊していく、というお話です。

映画では一見、トマスのほうに力点が置かれているように見えます。とにかく、色々派手にやらかしてくれるんです。最初は、ショック性の健忘症で、一人で逃げたことを完全に忘れてしまい、エバをイラつかせます。今度は一人で逃げた場面のスマホ動画が見つかり、「許してくれ!」と泣きわめきます。とにかくトマスはやらかしまくり、この旦那ひでぇな、みたいな展開が続くので、旦那中心に物語が展開しているように見えるんですけども、実はこのトマスは狂言回し的な役回りのように見えました。

物語の中心で、本当に悩み苦しむのは、むしろエバの方です。
これは、どういうことかというと。。。

エバは人の行為を許すことができない人です。
エバはトマスが一人で逃げたことを、どうにかして理解しようと努力をしますが、それができずに苦しみ、ついには激しい喧嘩をしてしまいます。
エバはリゾートに一人でバカンスに来ていた夫人と仲良くなります。しかし、夫人がリゾートで知り合った男と不倫していることを知ります。夫人はバに対し、夫との間でお互いが不倫することに合意していると説明するのですが、エバはこれも許すことができず、喧嘩になってしまいます。
最後には帰りのバスの運転手の技術が未熟すぎる、と怒ってバスを降りてしまいます。(バスの運転がどの程度未熟かどうかはよくわからない。)

人の行為が許せないと言う出来事が三度も繰り返されるのですが、これはエバの地獄めぐりと言ってもいいでしょう。
なぜ、エバはこんなに苦しんでいるのかと言いますと、人を許すことができないと言うことは、自分も許すことができないからです。

常に人の行動にイライラしていたり、怒っていたり、あるいは対抗心を燃やしている人。
周りにいる人間は、当然疲れるんですけど、一番つらいのは、実は本人です。他人を許せないばかりに、常に心を怒りで燃えたぎらせて、安らぐ時間もない。

この苦しみから解放される方法は一つしかありません。こだわりを捨てて、人を許すこと。思い切って許すしかない。

こういう状況に陥ってしまったとき、この「こだわらない練習「それどうでもいい」と言う過ごし方」を読んでみると、ホロっと心が楽になるかもしれません

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